第5話 翼の折れた白鳥-1

 1996年8月1日、室蘭を出た僕は今日の目的地である苫小牧を目指した。

「いよいよ襟裳岬もそう遠くない距離に近づいてきたな・・・」

襟裳岬までの到着予定日数はあと4日、

僕はその襟裳岬の百人浜という地に少しの憧れがあったのだ。

その憧れとはまたまた例の本、サイクル野郎2500キロに載っていた内容だが、その百人浜というところには、蝶々貝という美しい貝を拾うことができるという楽しみがあるのだ。(写真で見ると、その蝶々貝はちょうど蝶が羽を広げたような形をしており、ほのかなピンク色のカワイイ貝がらだった。)

その本の主人公であるチャリダーはその蝶々貝を見て、無関心を装いつつもひそかに想いを抱いている同級生の女の子のことを思い出すという描写があった。

しかしそのチャリダーはそれをプレゼントする勇気などなく、そんな憧れだけで終わってしまっていた。

僕にはそんな、シャイで不器用な男の気持ちが痛いほどよくわかって、僕の頭の中に描く蝶々貝を実際の蝶々貝よりも美しいものであるという風に認識していたのだろう。

なぜか無性にその貝が欲しくてたまらなくなっていた。

だから「百人浜に行ったら必ずそこでその貝を拾うぞ」と思っていたが、そもそもその本の内容は昭和56年のこと。(どーりでなんか古いと思ってたわ。俺が5歳のころの内容かよ!^_^;)
 最近の旅行ガイドによると、海の汚染のせいで、その貝の数の年々減っているという事実があるのだ。

でも僕は、「たとえ拾うことはできなくても、多少お金を出してでもそれをゲットしたい」と思っていた。

とにかく、「早く襟裳岬に行きたいものだ。」と思い、今日のこの道を走っていた。

 室蘭から20km程度東に走ったところに登別市がある。
僕はその地には特に興味はなかったが、温泉ということにおいてあまりにも有名な地であったので、少し寄り道してみることにした。
海沿いの国道36号線から山道に入り、10kmほど走ったところに登別温泉があった。時間があれがその温泉にも入ってみたかったが、午前中からそんなことをするとダレてしまうので観光だけにしておいた。

登別温泉のすぐ近くに地獄谷という観光名所があったので一応それも見た。たしかにそんな名前が付くだけあるとは思ったが、僕はそういう「いかにも名所です」という場所で感動したことはほとんどなかった。

観光バスが通るため、道は広くされて、そこには観光客であふれていてにぎやかになっていて・・。
 逆に何の名前もないごくありふれた景色に心打たれることのほうが多かった。やはり、名所になってしまったらその魅力は消えていくのかもしれない。

地獄谷を見た僕はそう感じていた。

Vol.2 RUN-1 Episode 5