第5話 翼の折れた白鳥-2

 地獄谷を後にした僕は、再び苫小牧に向かう海沿いの道である36号線に合流した。

その途中、昼食を取ろうとコンビニで買った弁当を海のほとりで食べると同時に休憩することにした。

昼食を済ますと苫小牧市に入った。
国道からすぐ近くの場所にフェリーターミナルがあったので、ちょっと見にいってみた。
その辺りには「北海道上陸したて」らしきライダーやチャリダーがたくさんいた。そのせいもあってか、こちらからする挨拶にためらっている人もいた。
船はさすがにデカかった。行きしなは電車で上陸した僕だが、帰りは船に乗る予定。
「俺が帰りに乗る船もこんなに大きいのだろうか」など僕は考えたりしていた。

なぜか港という場所に来ると、いろんなドラマが思い浮かんで、どうも心が弾んでしまう僕であった。(テレビの見すぎかな?)

 今日は天気が良いせいか、けっこう寄り道していることに気付いた。

そして今日のもう一つの寄り道はウトナイ湖であった。
ウトナイ湖はさっきのフェリーターミナルから約10kmほど北東に進んだ所にあった。

そのウトナイ湖にはたくさんの白鳥が泳いでいた。

「白鳥は渡り鳥。こいつらも俺と同じように旅を続けているのだな・・。
いや同じなんかではない。
こいつらの場合は生きるか死ぬかを賭けた旅。
何千、何万kmという距離を飛ぶ間ずっと羽ばたきつづけなければならない。
疲れて休むと海に落ちてしまうのだから。
俺みたいに贅沢な趣味で旅してるのとは訳がちがうよな・・・。」 

僕の近くにいた一羽の白鳥だが、よく見てみると、その白鳥は翼を痛めていることに気がついた。

「こいつ・・・、こんな翼で飛んできたのか?」

長旅のせいだろうか、その翼は見るからに痛々しく折れていた。
「こんな翼で飛べるのか?」僕はできるならそいつをこの北海道にあるムツゴロウ王国に持っていってやりたいくらいに思った。

しかし、その白鳥はそんなことは気にも止めず、(か、どうかは分からないが、)黙々と餌を捕まえては、食べていた。

僕は、そうやって傷つきながらも懸命に、今を精一杯生きるその白鳥の姿に心打たれた。

「これがもし人間なら、とっくに飛ぶことを諦める奴もいるやろうな・・・。」

僕はその白鳥をいじらしく思えて、しばらくその姿を見ていた。

そしてその白鳥がきっと長生きしてくれるであろうと祈りつつ、その地をあとにした。

爽やかに晴れた空には、大きな飛行機が力強く飛んでいた。

Vol.2 RUN-02 Episode 5