第8話 オニギリおじさん-1

朝になると昨日のお姉さんチャリダーの人は僕を起こしに来てくれた。

「起きてる?」と僕のテントを開けてきた。
僕はすでにその時起きてはいたが、いきなりテントを開けてきたのでビックリした。
でもかなり寝ぼけていたのでろくに別れの挨拶もできなかった。
彼女は僕を起こすとそのまま札幌に向かった。

完全に目を覚ましてから僕は彼女にちゃんと別れの挨拶をしなかったことを後悔したが、

「まあ、仕方ないか。」

と、朝食を済ませ出発の支度をした。

今日は夕張まで行く予定だが、その前に寄り道してこの支笏湖のすぐそばにある小さな湖、オコタンペ湖を見に行った。
そこは結構な上り坂になっていてキツかった。しかも周りは濃い霧に覆われていた。

「こんな霧では行っても湖を見ることはできないかもな・・・。」

と思いながらその湖に着いた。

やはりなにも見えなかった。

「・・・・ここまで苦労してこの坂を登った俺の努力はいったい・・・・・。」

オコタンペ湖が僕に姿を見せてくれなかったのは残念だったが、その地に訪れたことでとりあえず僕は満足して今日の目的地の夕張を目指し、走りだした。

支笏湖から西へ向かう山道が夕張までの近道となる。
僕はその山道への入り口まで進んだ。

すると、どうしたことだろう。
その道は閉鎖されていて、通行止めになっていたのだ。

僕はその看板の前でしばらくの間茫然と突っ立っていた。

「なんてことだ・・。」
地図に載ってる道が通行止めになるなんて考えてもなかった。
「今日中に夕張に行けなければ、また予定より遅くなってしまう・・・。」

と、少しためらったが、僕はそこからの策を考えた。

その結果僕は少し遠周りになるが、一旦北上してから西に向かうという二段階の形式をとることにした。

しかし、そこから北上するということは札幌へ行くということ。札幌は昨日出会ったチャリダーの女の人が今朝早くに出発して向かった場所。そこからさらに夕張までの距離は、60km以上はありそうだ。

「これは、今日中に夕張に着くのは無理かもな・・・」

と思ったが、とにかく走れるだけ走ることにした。

札幌に抜ける山道を超えたころ、霧は晴れて明るい日差しが降りそそいできた。
ちょうどその時点で昼前の時間帯になっていたので、僕は昼食をとることにした。
公園で、コンビニの弁当を食べていると、その前の道を通りすがりのおばちゃんが歩きながら遠くの方から声をかけてきているのが見えた。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」と聞いてきた。僕は
「奈良です。」と答えた。

おばちゃんはそれだけ聞くと、そのまま公園には入らず、通りすぎて行った。
多分地元の人だろう、通りすがりに旅人にちょっと声をかけただけだったようだ。
だがどんな些細なことであれ、話しかけられたらやはり嬉しいものであった。

Vol.2 RUN-07 Episode 7