第6話 勇敢なる女性チャリダー-1

 今日の目的地であるキャンプ場は、ウトナイ湖から20kmほど進んだ所にあった。そのキャンプ場はトイレ、炊事場と、キャンプに必要な設備は整っていた。(たまにトイレさえないところもある。)

「今日のキャンプ場は全体がほぼ平坦やからあえて平らな場所を陣取る必要はないな・・・。」

 テントを張った僕は日が沈むまでまだ時間があるので近くにある温泉を目指して走った。
(汗を洗い流せるし疲労も回復できるのでチャリダーと温泉ってのは相性がいいのだ。特に北海道は温泉が多いから助かる。)

鶴の湯温泉という所で、400円払って入った。体を洗って湯に浸かっていると、そこにいたオッチャンが話かけてきた。(オッチャンというよりおじいちゃんかも)
その人は京都から来た人で、同じ関西である奈良から来た僕と話が合った。
そして風呂から上がって服を着始めた時、今度はこれから風呂に入るところであろうライダーの兄ちゃんが話しかけてきた。

「自転車の方ですか?自転車ではだいたい一日どれくらい走れるのですか」
と、聞いてきた。
「荷物ありますから100km走っていいところですね。」
と、僕が答えると
「へぇー。それでもそれだけ走れるんだ・・。すごいなぁ~。」
と感心していた。バイクではその約3.5倍の350kmくらいが一日の距離らしい。

まあ内容はともかくとして、初対面の人と素っ裸のまま話をするというのはどこか抵抗があった。(笑)

 入浴と買いだしを済ませてキャンプ場に戻ると、急に疲れが出てきた。
とりあえず、夕食をとっていると、そのキャンプ場に泊まる人達が「一緒、に食事しませんか?」と誘ってきたので一応参加した。

キャンプ場で他の人と仲良くする機会はあんまりなかったので有難くはあったが、さすがにその日の疲労は激しくて、襲いくる睡魔に勝てず、その人たちには申し訳なかったが、一応それには顔だけ出して、即行眠らせてもらうことにした。

 自分のテントに戻り、寝袋にはいった僕だったが、なんだかすぐに寝つくことができなかった。

テントの外ではまださっきの人達の話し声が聞こえてくる。
僕はしばらく寝袋に入りながらその人たちの話に耳を傾けていた。

内容を聞いていると・・・
『熊は時速60kmで走れるから、もし、この北海道の狭い山道で熊に追いかけられたらバイクでも逃げきれない』とうものだった。

「何やそれ!?じゃあチャリの俺なんかもっと危ないやんけ!」
寝袋に入りながらちょっと心配になってきた僕であった。
さらに話を聞いていると・・・

『百人浜のキャンプ場に泊まるのはやめた方がいい。なんせ百人のドザエモンが上がってきた浜なんだぜ』と聞こえてきた。

「なに!!?マジかよ?そこは俺があと4日後に泊まる予定のキャンプ場やんけ!!」と驚いた。
そういえば、あの例の本にもそんな内容が載っていたことをなんとなく思い出した。
なんでも・・・

『開拓時に百人もの人がそこで溺れ死んだ悲惨な歴史が伝えられている。』と。

Vol.2 RUN-03 Episode 6