第6話 勇敢なる女性チャリダー-4

奥にあるのが炊事場です。

 テントを張ったあと、食器を洗いに炊事場へ行った。

すると、そこにいた僕と同い年、もしくはそれ以下くらいの女の子がシャカシャカと歯を磨いていた。

「ああ、よかった。」
とりあえず人がいたのでなんとなく僕は安心した。そう思いながら食器を洗っていると、その子は僕に話しかけてきた。

「自転車で一人ですか?」と。
それからその子との会話がはじまった。
話を聞くと彼女は僕より一つ上のオネ~サンだった。そして彼女も僕と同じように自転車での一人旅らしい。(しかも宿はテントがほとんどだってよ^^;)
小柄な人でよく日に焼けた人だった。
「女の子やのにたくましいな~」と僕は思った。

僕は少しこの人を驚かせてやろうと、この支笏湖のオカルト系の噂についてたずねてみた。
「ここってけっこう自殺する人とかがいて、そういう噂があるのって知ってました?」

すると彼女は
「ああ、知ってますよ。支笏湖の支笏を死ぬ骨(死骨湖)と書いたりして噂されてますよね。」と、あっさりと応えた。

なんと。その人はそれを知っていながら一人でここにテント張りにきたのだ。

「さすが、ダテに女チャリダーはやってないな・・。男である僕の友達ですらここの噂を恐れて訪れなかったのに・・。しかも色気も気にせず日焼けして。そんじょそこらの甘ったれたお嬢さまとは訳がちがうな。」

と僕にはそんなワイルドな女の人がちょっと魅力的に感じた。

そしてその人と会ったことで、さっきまであった僕の「この湖に対する恐怖心」が消え去った。

北海道に来てチャリダーとゆっくり話をしたのはそれが初めてだったせいもあって、そのひとときが僕には楽しかった。

僕は明日、少しの間でも一緒に走りたいとは思ったが、彼女人は明日札幌へ、僕は夕張へ行くのだ。方向は全く違うので一緒に走ることはできないので僕は、少しでも長く話を続けた。

それにしても彼女は僕みたいに何日にどこどこに泊まるなどという計画なんかは立てておらず、旅の途中で誰かに「あそこはいい所だよ」という知らせを聞いたらそっちへ向かい、制限日数内で行けないと感じた時は電車に乗ってワープするという旅のスタイルをとっていた。

「なんて自由な旅をしてる人なんだ。」と思った。

毎日毎日のスケジュールを必死にこなさなければ、不安にさらされる僕にはそんな自由な旅をする余裕などはなかった。僕は彼女を
「強い人やな・・・。」と感心していた。
彼女は明日の朝、かなり早くに出発することを聞いていたので僕は彼女に少し甘えて

「じゃあ、出発する時に俺を起こしてな」と、お願いしてから僕は自分のテントに戻った。

その人と話したおかげでその夜はこの湖にある噂なんかは気にならず、ゆっくりと眠ることができた。

Vol.2 RUN-06 Episode 6