第1話
「光の訪問者」
1996年7月27日、僕は函館の街に上陸した。
寝台特急の約17時間暇地獄からようやく開放された僕は駅の前で輪行カバン(電車に乗るために自転車を分解して小さくして持ち運ぶためのカバン)を開いて、分解されていた自転車を組み立てた。
やっと念願叶ったというのに北海道の大地についた僕はそれほどの感動はなかった。
というのはその日の空は曇っていて、どうも「北海道に着いたぞ~!!!」という気にはさせてくれなかったからだ。
今日の予定は函館から約30km。地図をみて確認してると一人の男チャリダーが話しかけてきた。
「こんにちは」
「え?ああ、こんにちは」
なかなか人なつっこい人だな。見知らぬ人にいきなり話かけるなんて、と思いながら返事をした。
「どこまで行くのですか?」
「大沼です」
と答えた。今日の走行予定は30kmであとは地図にあるキャンプ場を現地て探せばいいだけだ。初日はゆっくりしようと思ってた。
「大沼なら昨日僕が泊まった所です。その地図に載ってる二つのキャンプ場の一つはなくなってますよ。」
そういってもう一つのキャンプ場を教えてくれた。
「それから 昨日大沼にはアブがいて派手に刺されたから虫除けスプレー持っていったほうがいいよ。」
と僕にアドバイスしてどこかに行った。いかにもチャリダーの先輩ヅラな態度が僕には気にくわなかったが例の「サイクル野郎」の本にもたしか
「北海道のアブとスズメバチには注意してください。彼らの団結力を侮ってはいけません。」という描写があったことを思い出したので仕方なく虫除けスプレーを買いに行くことにした。
小さな店で虫除けスプレーを買った僕は しばらく走ったところで休憩していた。
するととこんどはオッサンチャリダーが話かけてきた。
「君、本格的だなあ、ヘルメットかぶる人、あまりいないぞ。」
その時僕がカバンに携帯してたヘルメットを見てそういった。「いや、余計なお世話やろ。」と思った。
いくら自転車といえども山の下りをノーヘルで走るのは非常に危険なこと、なんせ今まで時速70km以上は出したことがあるから。
そして2人目のありがたいアドバイザーと別れた。
それにしても、馴れ馴れしい人が多いなーと思いつつ、目的地の大沼に着いた。
Vol.1 FIELD-01 Episode 1