第3話 最高の挨拶-3

食堂へ行った時はすでに朝昼兼用の食事時間となっていた。焼肉定食を食らい、とりあえず、その湖に近い昭和新山まで走った。

噴煙に包まれた昭和新山は、迫力があった。
僕はそのすぐ近くにあるみやげ物屋に自転車を止めて、その店の中に入った。

その直後ぐらいだったかな?多くの人の「あ~あ!」という声が僕の背後から聞こえてきた!

「なんだ?」と思って振り返って見てみると、まさに、僕の自転車がスローモーションで倒れて「ガシャン!!」という音をたてている姿が見えた。
重い荷物を積んでいる自転車ゆえに絶妙なバランスでスタンドを立てないとすぐ倒れてしまうのだ。
 僕はみんなが注目してる中、照れながら、あわててスタンドを立てなおした。でもこれと同じことが都会で起こっても誰も「あ~あ!」なんて言ってくれないのに「みんな優しいのだな」と変なところで感心していた。

昭和新山の側にあるみやげ物屋でバター飴などの買い物を済ますと、僕は先を急いだ。そして、再び海沿いの道である国道37号に合流した。

 室蘭へ向かう国道を走っていると、たくさんのチャリダーやライダーとすれ違った。
僕は主に今までマニアックな山道ばかりを走ってきたせいか、他のチャリダーやライダーに出会う機会が少なかったのでそれが新鮮に感じた。
そして、彼らはそのすれ違いざまに必ずといっていいほど手を振って来るのだ。
どうやらこれは北海道を2輪で旅する人共通の挨拶なんだなってことに気が付いた。

最初のうちは「これは本当に俺に対して振っているのか?」と思ってぎこちなく僕は手を振りかえしていたが、
そうやって何度も挨拶されていくうちに僕もだんだん気持ちが素直になってきた。
そして今度のすれちがうライダーの人には思い切って僕のほうから大きく手を振ってみた。
すると、むこうも元気良く振り返してくれた。

「なんて清清しいのだろう。」

こんなに気持ちのいい挨拶をしたのは今までで初めてのことだった。

見知らぬ人同士が挨拶し合うなんて。北海道ならではのことだな。そう思っていると、次は後ろからライダーが僕を追い越した。そして僕に対しガッツポーズをすると同時に足をパタパタ振っていた。
思わず笑ってしまいながら僕もガッツポーズを返した。

今まで苦しい旅しか知らなかった僕は、旅にはこんなに楽しみ方があったのかと心は弾んでいた。

「仲間よ!楽しんでるかい?お互いイイ旅をしようね!」

そう思って僕は次々にすれ違う2輪の旅人たちに手を振った。

しばらく走って室蘭に近づいた辺りで展望台を見つけたので、僕はそれに上り、その景色を見渡した。

「室蘭までもう少しだ。今日はちょっと贅沢してユースホステルに泊まろう。」

僕は楽しい気持ちでいっぱいになっていた。


Vol.1 FIELD-09 Episode 3