第11話
「ライダーN」
次の朝起きた時はもう他のキャンパーの数はかなり減っていた。
今日は7日。
その日付から僕はあることを思い出した。
「そういえば、Nのやつが今年も北海道に行くとか言ってたな。たしか6日くらいに富良野にいるとか。」
ということNはもうすぐ近くにいるのかもしれない。
ここから富良野までは自転車では一日でいくにのは難しい。でも南富良野までならなんとか行けそうだ。
しかし、いずれにせよここから富良野方面に行くには狩勝峠という標高1000m近くある山を越えなければならない。
その山の大きさは北海道旅行者では先輩であるライダーNに僕は十分聞かされていた。
今日はかなり気合いを入れなければ・・・。
キャンプ場を出ると ここ池田の名所でもあるワイン城を見に行った。
ここは例の本「サイクル野郎」でも訪れていた場所なのでもう少し見ていたかったが、
今日のハードスケジュールが心配だったので、僕は少し見ただけでそのワイン城をあとにした。
池田町からR38を通り、再び帯広を通過して狩勝峠へつづく山道に入る直前の店で僕は昼飯をとろうとラーメンを食べた。
「いよいよ狩勝峠か・・」
店を出ると僕は実家に電話した。
「もしライダーNから電話かかってきたら、僕は今、帯広から富良野へ向かう国道38号を走ってる」と伝えてもらうように母に頼んだ。
その当時(1996年)は今みたいに携帯電話が普及してなかったのでそういう手段でNと合流しようと思った。
「これで準備は整った。あとはこの山を越えるだけか・・」
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そしてぼくはその山を登り始めた。
10km以上登りは続いたが、その分斜面がゆるかったため、僕は意外と苦しまずにその頂上、狩勝峠についた。
僕はもっと苦しいことを覚悟していたのでその意外さに拍子抜けした。
「あとはこの山を降りてNを探すだけだ。」
急に気が抜けた僕は上機嫌になり、しばらくそこの頂上での景色を楽しんだ。
すると僕と反対方向から一人のチャリダーが登ってきた。
同じ苦しみを味わった者同士だからなのか、僕とその人はまるで初対面ではないように思えるほど意気統合して北海道に来て今までのチャリの旅について楽しく語っていた。
初対面の人とここまで仲良くしゃべったのは初めてのことだった。
そしていつの間にかもう一人、チャリダーが登ってきてその人も加わってさらに話は弾んだ。
3人となった僕らはちょうどそこにいた二人組みの女の子チャリダーに話しかけにいった。
この男3人組はどうやら女好きらしい。
その女の子達は僕らが3人が今さっき出会ったばかりの初対面であることを聞いてかなり驚いていた。
それほどこの三人の息はピッタリだったようだ。
女の子達はその後すぐ走り去ったが僕ら3人はまだ話りあっていた。
僕らはその頂上にある店でいつの間にか蛍の光が流れてることに気付いた。
「え?もう6時か!そろそろ行きましょうか」
僕らはそこで解散することとなった。最初に僕と会った人が僕らと握手をして自転車に乗り、去った。
「じゃあ僕もそろそろ行きます。」と次はこの僕が自転車に乗ろうとした。
と、その時今さっき別れたばかり人が返ってきた。
「さっきカッコよく別れたのですが・・。どうやら手袋を忘れたみたいなんです(笑)」
僕は手袋を見つけて(笑いながら)その人に渡すと全員がそれぞれの目的地へと散った。