Vol.3 TOURIST-07~Episode 12~

 僕は「なんやこのオッサン。声色変えてコワくしてるつもりか?それともケンカ売ってるのか?」と思ったがここは素直に

「今日泊まるところないんです」と言った。するとそのオッサンは

「何考えてんだよ」と言ってきた。僕はオッサンの返しにムカついたが自分に落ち度があったので僕は素直に

「スイマセン」と謝った。するとそのオッサンは更に

「スイマセンじゃねーんだよ!他のチャリダーは朝早いからみんな寝てんだよ!こんなことされたら迷惑なんだよ!」
とどなりつけてきた。
僕は「カチン!」ときた。素直に謝ってる者に対してこの態度は許せなかった。

「俺もチャリダーじゃ!それに他のチャリダーが寝てるから迷惑とか言うのやったらこんな所でそんな大声出すほうがよっぽど他のチャリダー達に迷惑とちゃうんか?」と思いよほど反論しようかと思った。

怒りがこみ上げてきた。
相手は二人の大人、でも僕は取っ組み合いになったとしてもそいつらに負ける気はしなかった。僕の空手三段の実力(ホントは三級^^;)をもってすればその二人を蹴散らすのはたやすいことかも知れないが、僕はなぜか冷静だった。

「ケンカになって俺のテント壊されても困る。
それにいかに俺が空手三段の実力の持ち主だったとしても(三級だっつーの!^^;)この時間まで走りつづけた今の俺の体力ではその力は出せないかも知れない。しかも相手は登山家のような気がするし。
それに旅に嫌な思い出を増やしたくはない。」

そう思ってこみ上げる怒りを静めた。

その後僕は管理人室へ行ってさらにネチネチと言われた。

「こんな街灯もない所で夜中走るのは馬鹿だとか、またそれをひっかけた車なんてイイ迷惑だ。とか。」

ようやくその説教を終えた僕は自分のテントに戻ったがなかなか寝つくことができなかった。

やっと寝れるくらい落ち着いた時に、さっきのライダーの二人が帰ってきた。
僕は二人が風呂に行ってた時に起こったその事を説明すると、二人のライダーはここに泊まるのが嫌に思ったらしく、どこかに消えていった。

「それにしても、遅れてキャンプ場に着いてオニギリをくれるイイ人もいたのに・・ヒドイ仕打ちや。まったく・・。」

そう思い、僕は眠りについた。今日のことはこの北海旅行の中の最も嫌な思い出となった。

 翌朝僕は久々に夢を見た。内容は覚えてはないが、起きた時、実家のベッドで目覚めたのと錯覚した。
僕はこの時初めてほんの一瞬だけ「早く家に帰りたい」と思った。
実家のみんなの顔が浮かんだのだ。


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今まで旅をしてきて淋しいと感じたことはあったが僕は旅してる状態そのものが好きだからその旅がどんなに苦しい旅だったとしてもその途中で「帰りたい」なんてそんなことを思うなんてことは過去に一度もなかった。(高2にした和歌山ツーリングでさえそれは思わなかった。自転車のような苦しいのはもう止めようとは思ったが^^;)
というか旅が終わりに近づくことの方がよっぽど嫌で、「この旅はまだあと何日もある!まだまだ終わらない!」と自分を励ました程なのに・・・。

よほど昨日のことが影響したのだろうか。

僕は昨日の嫌な出来事を少しでも早く忘れたくなり、早くこのキャンプ場を立ち去った。



でも、後で他の旅人にこのキャンプ場のことを聞いたのだが、ここはマナーを守るというのに厳しくしてる所らしい。今になってそれを考えたらここのオッサン達も好きで怒鳴ったりしてる訳ではないのかと思えてきた。
街灯のない国道での夜間走行がいかに危険というのは僕が彼らに怒鳴られる前に走ってきたその道で直接感じ取っていたことだし。
多分この辺ではそういったことが原因で起こる事故が多いのだろう。車はチャリダーを見つけることができずにひいてしまったり。
それを防ぐためにあのオッサン達は厳しくしているにちがいない。今ならそう思える。

そしてキャンプ場を出ると外はイイ天気、快晴だった。



 昨日は夜に着いたため、ここの景色を知ることはできなかったが今日はここがこんなに綺麗な場所だったのかということを改めて知った。

しばらくして僕はまた走り出した。

 
Vol.3 TOURIST-07 Episode 12