雨のせいで自転車の進み具合は最悪だった。
僕はそれでもなんとか紋別市に入った。
そのころちょうど雨も止んでいた、というよりは、ここ紋別市では雨はさほど降っていた形跡はなかった。
僕はここで地図を見てみるとライダーNの字で
「紋別○町○丁目、○○信金の前、洗ってくれるコインランドリーあり」
と書いていたのでそれを探した。
しかし見つけるのに結構時間がかかった。
しかもその後見つけたのはいいが、「洗ってくれる」という謳い文句の意味が分からなかったが、いざ行ってみると普通のコインランドリーにオッチャンが一人ついてるだけだったのだ。
いや、それなら普通のコインランドリーでよかったかも…。
当然普通のコインランドリーよりは丁寧に洗ってくれるらしく、僕の場合ジーパンもお願いしたのでさらに時間がかかった。
地図には紋別市内にキャンプ場はないので今日はここ紋別からさらに北西に約20km進んだ所にある興部(オコッペと読む)まで走らなければならない。
ようやく長い洗濯が終わり外に出ると、もう真っ暗になっていた。
「ヤバイ」と思って興部に向かおうとしたが今度は空腹が僕を襲った。
「そういや昼から何も食べてなかったんだ。」
しかも雨がまたシトシト降り出してきた。
僕は雨の中、コンビニで買ったオニギリを街灯の下の道路で食べながら、地図を見て道の確認をしていた。
その時、その道路のすぐそばの家から体つきのゴッツイ一人のオッチャンが現れた!
そして暗闇から僕の方にノッシノッシ歩いてきてついに僕に話しかけた。
「お前、何やってる?」
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「いや…、今から興部のほうへ行こうと思いまして…。」
と、僕が答えると
「興部までだったらここから20kmくらいはあるぞ。今からじゃあ遅くなるぞ。」
と、オッちゃんが言う。
「そうなんですけど…」
という僕にそのオッちゃんは
「うちに泊まれ。」
「!!???え?いや、それは…」
予想もしてなかったことを言われて僕はためらった。
「遠慮するな、泊まれ。」
と言うオッちゃん。
僕はその日に泊まる予定だった興部の電車の宿がちょっと楽しみだったし、今日中に興部くらいまで進んでおかないと、稚内からフェリーで行く利尻、礼文島へ行く余裕はなくなってしまう。
しかし、そこまで言ってくれたことだし、断るのも失礼と思ってお言葉に甘えることにした。
僕はオッちゃんに連れられてその人の家に上げてもらった。
するとそこにいた奥さんが
「この人は別にオウムだとかそういう怪しい人じゃないから心配しなくていいよ。」
と、言ってくれた。
僕がそんなに怯えているように見えたのだろうか。
見知らぬ人の家に入って僕ははいささか緊張していた。
部屋に入った僕は北海道のことについてそのオッちゃんと話をしていた。
そして僕の今まで走ってきた跡を赤ペンで書いた地図をそのオッちゃんに見せると
「よくこんだけ走って来たな~」
とオッちゃんが言ってくれた。
「あなたなら、これから社会に出てどんな苦しいことがあっても耐えられるよ。」
とその奥さんも言ってくれた。
その後、シャワーもさせてもらったが、その風呂はしばらく入った跡がなく、汚れたお湯が少しだけ溜まったままで、ちょっと汚れた風呂場だったが、それでも僕には有難かった。
ちなみにその夫婦の間には一人の息子がいるけど一緒には住んでおらず、僕はその息子さんの部屋で寝かせてもらうことになった。
会ったばかりの人の家で寝たのは初めてのことで、少し緊張はしたが疲れている僕は朝までゆっくり寝ることができた。