第27話
「それぞれの北海道」
僕はキャンプ場を探すのが面倒になったので、国道沿いに公園にテントを張った。
ちょうど、水もトイレもあったので。
しかしそこは本当にただの公園だった。
そんな公衆の場にテントを張るのもどうかと思ったが、夜のこんな雨の中では誰も来ないだろうし、
一晩くらいならどうってことないだろうと思って気にせずその場所を借りた。
しかしその夜、眠りにつくころ、暴走族のバイクの音がすぐ近くまで来ていることに気がついた。
「これだから市街地は困るな~頼むからこっちに来んといてくれよ~」
と思っていた。
やがてその暴走族のバイクの音は徐々に小さくなっていった。
僕は一安心した。
「しかし暴走族もこの雨の中よく走るものだ」
暴走族のバイク音は止んだが、大粒の雨音はいまだにおさまらない。
「明日起きた時には止んでてくれよ」と願って眠りについたのだった。
翌朝、その願いは却下されたらしく、僕のテントを叩くように降りつける大きな雨音によって目が覚めた。
嫌な目覚め方だ。
テントのト扉を開けて外を見て、雨が降ってるかどうかを確認するまでもなく、
明らかに大粒の雨は降り続いていた。
「ああ、テンションが下がる」
僕は雨に濡れながら雨に濡れた芝生でテントをたたみ、
雨に濡れたままのテントをバックに詰め込み、
それを雨に濡れた自転車に縛り付けると、
雨に濡れた僕は雨に濡れた自転車に乗って雨に濡れた公園から出た。(しつこいっつーの!)
雨は一向に止む気配を見せない。
立ち止まって写真を撮る気も起こらない。(濡れるだけだし)
僕はひたすら、礼文で会ったお姉さんに会うことだけを考えてそれを前に進むための原動力に変えた。
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今日は9/1。
小樽から敦賀に向かうフェリーに乗る日、つまり僕が北海道を去る日は9/3の夜。
そう、僕が北海道にいれるのも残すところ、今日入れて3日なのだ。
なんとか9/2と9/3のうちのほんの少しの時間でもいいのでお会いしたいものだ。
てな訳でそろそろ連絡を入れておかないと。
「って今頃かい!!」と思われそうだが、当時の僕は友達と会うのも遊ぶのもいつも
「今日遊べる?」「今からそっちへ行くけど大丈夫?」の当日予約ばかりだった。
男同士では別にそれでもほぼ差し支えなかったが
女性は先約を大事するので、女性と上手く会うには随分前からの予約が必要だということは
当時の僕は知らなかったのだ。
(そりゃなかなか彼女もできなかった訳だ(^_^;)
で、僕はこの雨の中、お姉さんと会う約束をして、少しでもテンションを上げようと試みて、電話ボックスを探した。
(当時は今のような一人一台の携帯電話などなく、ポケベルですらちょっと先を行ってる人だったのだ。)
ようやく電話ボックスを見つけて僕は彼女に書いてもらったアドレスを帳(というかメモ帳)を開いた。
「えっと電話番号は…」
僕は大変なことに気がついた。
そのメモ書きには彼女の電話番号が書かれていなかったのだ。
ちゃんとしたアドレス帳を持っていってれば、その欄に埋めてくれただろうが、
メモ帳ってのはよくなかった。
「うげ~!!!」
僕のテンションは落ちるところまで落ちた。