第8話 電車の宿

第8話
「電車の宿」

 キャンプ場を出ると、昨日は恐さのあまり泊まることができず素通りしたキャンプ場らしき場所に再び辿り着いた。
でも、その場所の名前をよく見てみると、「思い出の家、幸福の黄色いハンカチ」とあった。
そう、そこはキャンプ場ではなく、高倉健主演のその映画の記念館みたいな所だった。

中に入ると、その映画に使われた道具や健さんの人形などがあった。

「それにしてもあの健さんを昨日の夜に見てなくてよかった。」
昨日はこの場所をキャンプ場の受付かと思って入ろうとしたが、幸いにも鍵がかかっていたのだ。
疲労した昨日の状態でしかも真っ暗の中あんなものを見てしまったら男の僕でも悲鳴をあげたかもしれない。^^;

今日もハードスケジュールではあるが、せっかく夕張に来たのだから昼ご飯は夕張メロンを食べようとそのメロンを買った。僕にとってメロンはあまり好きな食べ物ではないが実家にも宅配便で送ったしここで食べおかないと損すると思ったので僕の今日の昼食用に買っておいた。
現地の夕張メロンは1つ千円だった。う~ん、贅沢。

それにしてもいくら夕張メロンの産地だからといって公衆トイレまで夕張メロンの香の芳香剤を置いてるのはどうかと思った。
「これではむしろ夕張メロンの人気が下がるのでは・・・」と、思ったがとりあえず夕張メロンを食べようと休憩することにした。
その時はちょうど夕張市を越えたところだった。 メロンを丸1個食べ終わると僕は先を急いだ。
「とにかく明日には襟裳岬に着くように今日中に距離を稼いでおかなければ・・」

夕張から穂別町に抜けそこからは海沿いの国道237号に合流した。
海沿いを走り出した時はもうすでに夕日が差していた。

僕はまたお中が空いて、コンビニの弁当を近くの川のほとりで食べた。

「今日もまた夜になっての到着やな・・」 目的地である新冠(にいかっぷ)には着いたが、僕は
「険しい山道とは違い、この道なら夜でも多少は走れる。どうせならもう少しだけ距離を稼いでおこう。」
とさらに10kmほど走った所にある静内町のキャンプ場を探した。

だが、そこに着いてもキャンプ場はなかった。いや、あるのかもしれないが、その国道に書いてあった「電車の宿」という看板に興味をそそられたので高いとは思ったが2000円払ってそこに泊まることにした。

しかし、その判断は少しの後悔につながることとなった。

電車の宿とは昔は稼働していた寝台列車をそのまま宿泊施設として再利用したものだった。
中に入ると廊下は真っ暗。廊下の電気くらい付けてくれよと思った。
(もしかしたら廊下のどこかにスイッチがあったのかも知れないが、疲れていたのでそれを探す気力はなかった。)
そして部屋に入ると窓の外はいきなり山だった。
いつ熊が出てきてもおかしくない雰囲気。(いや、熊よりもコワイものを見てしまってもおかしくない)
そしてその寝台車の中で宿泊してるのは僕一人だけだった。

僕はその電車の真っ暗の廊下を通り、シャワー室に入った。電車もかなり古びていて僕はこの異様な空気に恐怖してしまい、シャワー室のカーテンも開けたままにして頭を洗う時もずっと目を開けていた。
シャワーを終えた僕は寝室に入った。

「やはりここで寝ないといけないのか・・・」

止まっている電車がここまでコワイとは思わなかった。
電車は動いている状態が普通という意識があるので、止まっている電車というのは死んだ電車という感じがした。
しかももっと設備を整えて綺麗に明るい雰囲気にしてくれていればなんとも思わないだろうが、とにかくこの場所は耐えがたいものがあった。(まあ、僕が恐がりなのもあるが^^;)

僕は恐怖から逃れることができず、その夜はずっと電気をつけっぱなしにして朝まで寝た。
朝 になって多少恐怖は去ったが、僕はそこに長居するのが嫌だったため。急いで荷物を片付けて出て行った。

Vol.2 RUN-09 Episode 8